ここ何年かでスキーの形状は大きく変わりました。
かつて2m超のスキーを履いていた私のスキーは、今や160cm台です。
現在、中高年のスキーヤーにとって、この用具の変化に着いていけない人も多くいるのではないでしょうか。 また、今のカービングスキーの滑走スタイルに、ある種の嫌悪感を抱いている人もいるのではないでしょうか。
そのような方に、カービングスキーに対する理解を深めていただきたい。また、まだ従来の用具を使っている方ならば、この際新しい用具に買い換えるきっかけにして欲しい。そんな願いを込めて、この講座を始めようと思います。
不定期に書き足していく予定です。時々ご訪問いただければと思います。
目次
1、カービングスキーは本当に楽
2、従来のスキーとどこが違うか?
3、カービングとは
4、カービングするには力がいる。
5、レールターン
6、ズレて回るのが本来のスキー
7、カービングスキーの滑り方(その1)
8、カービングスキーの滑り方(その2)
9、カービングスキーで楽々ターン
10、短いスキー
11、横滑りの重要性
12、スキーの快感
1、カービングスキーは本当に楽
私がカービングスキーを履いた最初の感想は、とにかく「楽だ」ということです。
当時(7,8年前でしょうか)、2m前後のスキーを履いていた私にとって、170cm位の板は見た目にも不安定な感じを受けました。またトップとテールがやけに太く不恰好に見えたことを覚えています。
しかし実際に履いて滑ってみるとその感覚は一掃されました。
不安定感は全く無く、170cmの板でも2mの板と同じ安定感がありました。不恰好に見えたトップとテールの幅も、そのおかげでスキーが自然に回ってくれるのがわかりました。
特に印象的だったのは、東館山の林間コースを滑ったときのこと。
従来ならコースの直線部分はほぼ直滑降、カーブではテールをズラしてターン。そういう滑り方をしていたはずでしたが、そのとき気がついたのは、カーブでスキーをズラさなくても回れるということです。外スキーのエッジを立て内側に深く倒れ込むだけで、結構きついカーブが回れてしまったのです。これは感激でした、なんて楽なんだろう、そしてなんて楽しいんだろう、と。
2、従来のスキーとどこが違うか?
従来のスキーと最近のカービングスキーのどこが違うかというと、まずはその形状。
長さが短く、トップとテールの幅が広く、従来よりサイドカーブがきつくなっています。最近、昔の板を見るとずいぶんと細く、ずん胴に見えます。
サイドカーブは現在ほとんどのメーカーがR(半径:radius)で表示していて、最近の板では10mから20数mとスキーによってずいぶんと差があります。
スキーのR 競技用の板では、SL用は10m前後、GS用は20数m(規格によって20m以上)が多いようです。
かつての板はというと、Rの表示は一部でしたが、大体50m前後だったのではないでしょうか。
これだけ形状が変わってきたのには、素材と加工技術の変化があります。簡単にいうと、現在の板はかつてのものより、縦方向のフレックスが軟らかく、横方向のねじれが強くできている、ということです。
その為、以前に比べてたわみやすく、ねじれに強い板になっています。たわみやすく、かつスキーのウェストが絞ってあるので、サイドカーブは以前より小さい弧になり、ねじれが強いのでテールのズレが小さい。
このことから、ズレの無い(少ない)カービングターンが容易にできるようになったのです。
また最近は用途によって形状の違うスキーがいろいろ作られています。新雪・深雪用には幅の広いタイプ。コブ斜面用では細身でテールのやわらかいタイプなど。また長さもいろいろです。テレマークスキーなども増えてきているので、機会があったら試してみるのも面白いでしょう。
3、カービングとは
Carve(切る、彫る) Curve(曲線、曲り、曲げる、曲がる)
スキーのカービングには上の2つの両方の意味があると思います。
1、エッジで雪面を切る。
2、スキーが自然に(容易に)曲がってくれる。本来の定義は1のエッジで切る、ズレの無いターンのことをいうようです。
かつてのスキーは、テールをターン外側に押し出すことによってスキーの向きを変えていました。
とくにターンの始動は、重心移動と共にスキーのテールを振る動作が必ず必要でした。ただし競技スキーではターン中盤から後半にかけて、いかにスキーをずらさないでスピードを出すかに努力していました。その部分がカービングです。
斜滑降 ようするに、斜滑降の延長です。というより、スキーがたわんだ状態での斜滑降とでもいえばよいでしょうか。
以前のスキーはずん胴ですから、斜滑降をしようとエッジを立て斜面を横切っても直線に進むだけでした。(ただし、上手い人はきちんとスキーのサイドカーブが描けました。)
しかし現在のカービングスキーはサイドカーブが深く、スキーもしなやかでたわみやすいので、同様に単に斜滑降をするだけでもカーブを描きます。自然に曲がってくれます。(ただし、角付けがしっかりとできていないとだめですが。)それが今のスキーの性能です。
別の言い方をすると、カービングとはトップとテールが(ほぼ)同じところを通るターンといえます。
滑走中にエッジがずれていたらトップとテールは同じ所は通れません。自分のスキーがズレているかいないか、足裏の感覚で感じ取れることが必要です。これが本来のカービングターンです。
同時に大切なことは、今のカービングスキーはエッジを立てようとするだけで回ってくれると言うことです。ズレの程度によって弧の大きさが変わりますしスピードも変わります。そのズレの程度を調整できる技術が非常に重要だと思います。
1、意識をもってエッジを切り込み、ズレの無いターンができる。
2、エッジを立てるとスキーがカーブを描いて進む。
現在のカービングスキーには上の2つの内容があると思います。
体力的に自信のない方にとって大事なことは、2の方です。
4、カービングするには力がいる
ズレの無いカービングターンをするには、脚力が欠かせません。
同じスピードで滑っても大きな弧と小さな弧とでは、小さい弧のときの方が大きな遠心力が働きます。車に乗っていてスピードが同じでも、大きいカーブを通る時より、小さいカーブの時の方が体がカーブの外に押される感じが強くなるのと同じです。
カービングのときは両足(均等)荷重でなければいけない。近年、こういうふうに言う人が多数います。
本当にそうでしょうか?
かつては、外足荷重こそがスキーの基本でした。外肩を下げて外スキーに体重を乗せる。内スキーは外スキーに引き寄せ、次のターンの準備をする。
それが何故両足均等荷重といわれるようになったか。
それはスピードです。
競技スキーでハイスピードになったとき、外足だけでは遠心力に耐えることができない。片足で支えるより両足で支えた方がより速いスピード(大きな遠心力)に対応できる。
ようするに、片足だけでは踏ん張りきれないから両足で踏ん張る。
それだけのことです。
それをどんなスピードのときでも両足均等に乗れというのは不合理です。
人は片足づつ歩くものです。常にうさぎ跳びをしていたらすぐにバテてしまいます。
スキーも同様、両足均等荷重は疲れるのです。
長い距離を滑ってみればすぐにわかることです。
両足均等荷重は常に両足が緊張しています。それに対して、外足荷重は内足がリラックスできます(完全に力は抜けませんが)。
どんなスポーツにも言えることですが、「テンション&リラックス」が重要です。
力を入れるときと抜くとき、それを覚えることでその動きを習得し、そのリズムが速さや美しさを生み出すのです。
やみくもに力んでいるだけでは、力を効率的に使うことはできません。
5、レールターン
カービングスキーが出てきてから、レールターンをしている人が非常に増えました。
かく言う私もよくやっています。ただし私の場合はカービングスキー以前からやっていることです。エッジの感覚を高め、ズラさないスキーをする為には必要不可欠だと思ったからです。
最近よく言われる小指側のエッジ感覚、これを高めることはスキー操作にとって有効だといえます。
エッジの作用として、親指側はズラし易くバランスがとり易い。小指側はズラし難くバランスがとり難い。つまり小指側(アウトエッジ)はエッジは立ちやすいがバランスが取れない。
ということはやはり、外足インエッジ荷重をすることが安定したスキー操作ができるということです。
レールターンで気をつけることは、まず自分でターン弧を先にイメージしないということです。
つまり自分で弧を描こうとするのではなく、スキーがどのようにカーブするか受身になってスキーに乗るということです。スキーの性能によって同じようにエッジを立ててもスキーが変わればその弧も変わります。ようするにレールターンをすることでそのスキーの性能を知る、ということです。
もう一つは左右の足への荷重バランスを調整することです。
外足(インエッジ)主体でどれだけ内足(アウトエッジ)に荷重すればよいか。肩や腰のライン、スタンスなどを含めて両スキーがズレないでターンするようにバランスをとることが大切です。
6、ズレて回るのが本来のスキー
カービングスキーだからといって、常にカービングだけしているわけではありません。
カービングだけしていたら、斜度が緩くならない限り、ほとんどの人はスピードオーバーで破綻に至るはずです(上手い人なら山回りで止まることができますが)。また、障害物や他のスキーヤーを避けることもできないでしょう。それができるということはスキーをズラしてスピードをコントロールしていることに他なりません。
初心者が初めて習うことはスキーのズラし方です。ズラしてスキーの向きを変えることです。プルークボーゲン、横滑りなどです。
その時に気をつけてほしいことは、「ズラすときにはエッジを立てる」ということです。
エッジを立てていない状況というのは、スキーと雪面がフラット(平踏み)になっていることです。
しかしこのような状況は滑走しているときにはめったにありません。止まって立っているか、直滑降をしているかでしょう。
ただし直滑降でも今のカービングスキーは直進安定性がかつてのスキーに比べて極端に悪くなっています。長さは短く、滑走面に溝はなく、トップは広いけれども両端のエッジはスキーの中心線より外側を向いているのでエッジが取られやすく、スキーは左右にブレやすくなっています。またトップとテールが広く足元が細くなっているので、横滑りの時もスキーの前後が引っかかり易く、スキー全体をバランスよくズラすことが難しくなっています。
つまり、カービングスキーはかつてのスキーよりズラすのが難しくなっています。
別の言い方をするとエッジが効きやすくなっているということです。
だから、スキーをズラすときも立てたエッジがズレているという感覚を常に持っていることが必要です。
7、カービングスキーの滑り方(その1)
まず、カービングースキーで気をつけたいのは足裏感覚です。これは従来のスキーも同様なのですが、カービングスキーの方がエッジが効きやすくなっているため、エッジ操作が非常に大切になってきます。またそのエッジも足元ではなく、トップとテールが効きやすく、少しバランスを崩しただけでトップやテールが取られ転倒に繋がることもあります。
ですから、カービングスキーのときは従来よりも足裏の感覚を敏感にして、今、自分のスキーの滑走面と雪面がどのような関係になっているか把握していることが必要です。
まず大切なのは滑走ポジションです。最近はスタンスを広げ低い姿勢で滑っている姿がよく見られますが、美しさという観点ではどうでしょう。また低すぎる姿勢は疲れます。広いスタンスは安定感はありますが、素早いエッジ操作には不適です。やはり全体のバランスというものが重要です。
スタンスは腰幅、スキーをフラットに踏め、なおかつインエッジ・アウトエッジともにすぐに切り換えられるようなスタンスが良いでしょう。姿勢は、自分の楽な姿勢で膝を曲げることもできる、伸ばすこともできる状態が良いでしょう。
8、カービングスキーの滑り方(その2)
スキーの性能を出すカービングスキーは、荷重ポイントと角付けが適当であれば自然に回ってくれます。 ですから、自分でスキーを回そうとするよりそのスキーが行きたい方に行かせる。 そのスキーの回転性能を引き出すように動く。
ことが必要です。(最初のうちは)エッジを立てすぎないカービングスキーだからといって、ただエッジを立てればいいというものではありません。
エッジを立てる=スキーの性能(スキーヤーの体重もありますが)だけで回る
と言うことです。
自分の意思で滑る為には、荷重・抜重・捻り・ズラしが必要になるのは当然です。外足のみの荷重を内足小指側エッジに分散させる従来は外足荷重が最も重要な技術でした。いまでもそれは変わらないと思います。が、スキーには4本のエッジがあります。それを有効に使わない法はありません。片足では踏ん張れないから両足で踏ん張る。これがカービングの本来の基本です。
小指側エッジの感覚を高めるスキーを履いたとき、小指側のエッジ感覚というものは非常に繊細です。骨格の構成上、親指側はエッジがずらしやすくバランスが取りやすいのですが、小指側はエッジが立ちやすくバランスが取りにくいと言われています。
ですから、4本のエッジを使う為には小指側の感覚を養う必要性が高いと思います。足裏を左右半分ずつ使うスキーを履いて、雪の斜面に立ったとき、足裏全体に一様に荷重はしていないはずです。山側の足の小指側、谷側の足の親指側に荷重しているはずです。スキーをしているときには。常にこの状態が続いていると考えていいと思います。
スキーで滑っているとき、直滑降をしているときはほんのわずかだと思います。大概は左右どちらかにターンをしているはずだと思います。
ですから、スキーを履いたときは左右の足の裏の中でそれぞれ左右別々に使う感覚が必要だと思います。
9、カービングスキーで楽々ターン
外足荷重常に両足均等荷重というものは疲れます。長い距離を滑るときは、外足荷重のほうが良いでしょう。外足は緊張・内足はリラックス、これを左右交互に交換することにより、疲れを少なくさせることができます。やはり、外足荷重はスキーの基本です。
前半はズラして、後半はカービング。中・急斜面では、カービングだけで滑ろうとすると必ずスピードが出すぎます。スピードが出ると力が必要になってきます。また、ラインもスキーなりにしか描けません。
そこで楽に滑る為に、ターン前半はズラしてスピードと弧のコントロール、後半はカービングで切り上げるという滑り方が有効です。特にターンの後半、スキーをカービングさせることにより、自然な切り上がりを待ってエッジを切り換える(重心の移動方向が重要です)と、スキーの撓みも利用でき楽なエッジの切り替えができます。緩斜面では内傾レールターン。
緩斜面はスキーをズラすとスピードが極端に落ちます。カービングスキーの特性を上手く使い、足元はズラさず、体全体を左右に傾け、足裏の左右を交互に踏めるようにバランスを取る。それだけでターンができます。
緩斜面ならば弧の調整もそれほど必要ないでしょうし、スピードがそれほど出ない状況ならば、レールターンもあまり疲れないはずです。
10、短いスキー
ファンスキー:長さ130cm以下のスキー板 (日本ファンスキー協会の規定)
スキーボード:長さ100cm以下のスキー板 (DIN規格 国際規格)
短いスキーのメリットは、足裏感覚で滑れる手軽さ。初心者が先ず一番先に苦労する板の先が交差してしまう事も無く、直ぐにゲレンデを楽しむ事が出来ます。
デメリットは、板自体に厚みが無く、エッジも短いので、アイスバーンに弱い。またスピードを出すと直進安定性がないので、不安定である。さらに新雪、深雪にも板が潜ってしまい適さない。
しかし、この長さだから出来る特有の小技とかが多く存在するので、昔ながらのファンスキーフリークには根強い愛好者も多いのです。90cm位の長さが主流のようです。
11、横滑りの重要性
スキーはズレて回るものだということを前(6、ズレて回るのが本来のスキー)に書きました。ですから、意識してスキーを思うようにズラせることが重要です。
特に今のカービングスキーは、従来のスキーと違ってエッジが立ちやすくなっています。
トップとテールの幅が広くセンター部が細いので、自分の重心をうまく操作させないとスキー前後のエッジの引っ掛かりが変わり、スキーのズレを自在にコントロールすることが難しくなっています。
そのために必要なことは、まず足裏感覚を養うこと。
スキーと雪面が今どんな状況にあるのか、雪の硬さは?、斜面の状況(凸凹)は?、エッジの立ち具合は?、スキーの向きは?、自分の重心位置は?など、足裏から伝わってくる情報を適切に判断して体を動かすことが必要です。
横滑りをすることにより、足裏感覚を養うことができます。
まずスキーを平行にして斜面に立つ。エッジを緩めながらフォールライン方向にズラす。エッジの立て具合でスピードを調整する。
次は斜め前にズラしていく。スキーの向きと重心の移動方向で進行方向をコントロールする。
さらに斜め後ろにズラす。上体の状態はあまり変えず、大事なのは足裏と重心の位置です。
そして、必要不可欠なのはスピード調整。スピードのコントロールができなければ、危険でもあり他のスキーヤーへの迷惑になります。このスピードコントロールができないことがスキー事故の最大の原因です。
基本は進行方向とスキーの向き。進行方向(自分が進みたい方向)にスキーを向ければスピードが出る。その方向に対してスキーを横に向ければスピードが落ちる。
操作の中で気をつけるのは、足裏でエッジ角度を調整することと左右への荷重配分です。
エッジの角付けは微妙な変化でスキーの動きが変わります。操作は丁寧にし、感覚を身につけてください。
左右への荷重配分は、両スキーを同様に動かす必要性から均等が理想でしょう。しかし、インエッジはエッジが立ちにくいがバランスはとり易い、それに比べて、アウトエッジはエッジが立ちやすいがバランスをとり難い。こういう特性があるので、谷足を主としたほうがやり易いでしょう。ただし、両スキーを常に同時に動かすためには山側スキーの小指側への押さえが必要です。
12、スキーの快感
スキーの楽しさは、スピードと落下。
その他にもいろいろあるとは思いますが、風を切る爽快感、機械を使わず自然落下に任せ斜面を降りる、恐怖と紙一重の快感。
これは他のスポーツや遊具では味わうことができない感覚ではないでしょうか。(ジェットコースターはコースが決まっています)
しかし、歳をとるにつれて体力・筋力が落ちてくるのは致し方ないところです。そこで、必要最小限の力を使って滑ろうということになるでしょう。
滑っていて一番力が必要な時はどこでしょう?
それはスキーの向きがフォールラインと直角になった時です。(図のA)
その時が、重力と遠心力が同じ方向に働き力が最も必要になります。
特に急斜面では、この部分でテールがずれて切り換えのきっかけを失ったり、スキーを抑えきれずにエッジを切り換えてしまってスピードオーバーになってしまったりすることが多いと思います。
そこで滑り方の一つとして、
ターン前半はエッジを立てすぎずにスピードコントロールと弧の大きさの調整を心がける。
そして余裕を持ってターン後半を向かえ、次第にエッジのズレを少なくする。
スキーが十分横を向き、ズレが無くなった時にスキーが撓むように踏み込む。
するとスキーはサイドカーブによって斜面上方に切り上がります。
と、同時に体(体軸)が斜面下方に傾きます。
この時にエッジを切り換えます。
切り換わったらまたスピードと弧のコントロールです。
このようにして滑ると、脚力もあまり使わず、安全にかつ切り換えの時の落下の快感も味わうことができると思います。